【社員を活かす社長の視点】第5話:昇給はいくらにしたらいいのか
ビジネススタイリスト代表の大西美佳です。
社長からよくある相談のひとつが「昇給をいくらにしたらいいのか」です。2018年春闘、経団連の発表によると、定期昇給とベースアップの合計で月額平均8,621円(賃上率2.54%)。
経営が厳しい中小企業であっても、やはり社員に毎年同額の給料では申し訳ない。いくらかでも昇給させたい。昇給しないとモチベーションもあがらないし、退職するかもしれない。という不安から、自社の利益に関係なく、昇給を決断される会社が多いです。
人事制度の基本から言うと、「昇給原資がなければ、昇給できない」、また「個々の社員の能力向上や成果増大がなければ、昇給しなくていい」が正解です。“そうは言ってもなぁ・・・”と社員の顔が浮かぶ社長としては、それぞれの社員に数千円ずつの昇給を決断することになるのです。
大企業と中小企業では、人材の厚みや年齢分布が違います。毎年一定数の定年、再雇用による退職者が発生する大企業では、退職者の人件費分を在籍している人への昇給や若年層の給料に再配分することができます。もちろん、再雇用の年齢が上がることで、大企業も賃金カーブを抑える必要があるのは当然ですが。
さて、中小企業ではどうでしょうか?
人材の分布はバラバラです。高齢化により中高齢者が多く、若年層が採用できていない。会社の未来を担う人材が不足しているのに、昇給をしている場合ではないケースもあります。基本的に社長は社員に優しいのです。子供が生まれた、とか、家のローンもあるだろうしとか、いろいろと考えて、なんとかしてあげたいと思うものです。
そして、数千円の昇給となるのですが、社員からすると、連日報道されている大企業の昇給額と比べて「こんな金額か」と社長の想いとは裏腹に、昇給したとしても満足しているわけではありません。
「社長、私たちのために昇給してくれて、ありがとう!」と言っている社員を、残念ながら私は見たことがありません。
そのように昇給を積み上げた結果、勤続年数が長いわりに、会社への貢献度が低い社員の給料が高すぎる、と社長は、過去に自分のやってきたことを忘れて、違和感を感じ始めるわけです。
例えば、大卒22歳月給20万円スタート、毎年昇給6000円、55歳上限として、33年×6000円=198,000円 55歳時点で、月給398,000円。
高評価の社員の場合で、毎年昇給8000円とすると、55歳時点で、月給464,000円。
低評価の社員の場合で、毎年昇給3000円とすると、55歳時点で、月給299,000円、ここに月30時間残業代約70,000を加えると月給369,000円、さらに諸手当が支給されるかもしれません。
ついつい毎年の昇給時期に昇給のことだけを考えると、昇給せざるを得ない気持ちになりますし、昇給もできない会社はダメな会社のような気がしてきます。昇給をしないと社員のモチベーションがあがらないと考えてしまう。
社長は、どうしてもお金と社員のやる気を結びつけてしまいがちですが、ここで改めて考えて欲しいことは、社員は給料があがると、本当にやる気を出すのでしょうか?ということです。
以前に不動産を取り扱っている会社の顧問をしていたことがあります。契約金額の○%が歩合給として支給されます。ある月は100万円以上となることもあります。実績を出せば出すほど給料がでます。さて、この会社の社員たちはやる気が高く、活き活きと働いていたのでしょうか。
実際にその会社では、遅刻早退が多い。また、定着が悪くすぐに辞めていく。社員同士の連携も取れていませんでした。
極端な例かもしれませんが、給料だけで社員のやる気を引き出すことはできないことは明白なのです。また、自分の成績だけがよければ良いなどの弊害も生まれます。
社長は、昇給の額に頭を悩ませるのではなく、どうしたら、社員がやる気をもって働くことができるのか、業績が悪くて残念ながら昇給できなかった年があったとしても、社員が一致団結して業績向上に向けて、知恵を出し合い、協力することができるのか。
この会社で働くことが、社員のやりがいであり、生きがいであるといえるほどの環境を作りあげることです。
『給料以外のインセンティブ、魅力、働きがいを社員に与えること』に意識を向けることのほうが大事なのです。
そんなことは分かっていると言われそうですが、実際にそこに愚直にとりくんでいる会社は数少ないのが現実です。目の前の売上を上げることばかりに意識が向いています。当然、利益がでないと会社が存続しないからです。
弊社の顧問先で、社長自らが社員の教育や働く環境改善に着実に着手し、毎年向上している会社があります。業績も安定し、社員の定着もいいですし、何より社員さんがイキイキと働いておられます。
これは口でいうほど、簡単にできることではありません。ニワトリが先か、卵が先か。
継続した利益を生み出したかったら、今期、来期という目先の利益を追い求めるだけでなく、10年後の安定した利益確保のために、社員に対するお金以外の報酬を与えることを真剣に考えてください。
お金以外の報酬とは何か、一歩ずつ自社でできる取組みをトライして、社員を巻き込みながら、作り上げていくことを目指していきたいですね。
それが実現できたなら、労働力人口が減り、採用が厳しい時代であっても、人に困らない会社となることでしょう。